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ドアを開くと、付いているベルの音がチリリンと響く。
「いらっしゃいませー」
ホールスタッフの莉緒さんは俺の顔を見ると、
「愛華さーん、大成クンが来ましたよー」
とカウンターに声をかけながら進んでいく。
その声に、カウンターの中で椅子に座って本を読んでいた愛華姉が視線を上げた。
「おー、大成」
愛華姉は立ち上がり持っていた本を椅子に置くと、隣にいた香織に気づいて微笑んだ。
「今日は香織ちゃんも一緒か、いらっしゃい」
「こんにちは、愛華さん♪」
香織はにこやかに挨拶を返すと、愛華姉の前のカウンター席に着いた。
「…相変わらず客が少ねぇなぁ、このマンガ喫茶は」
俺がそう言いながら香織の隣の席に座ると、
「マンガ喫茶じゃねぇよ、漫画が多い喫茶店だ」
と答えて俺たちの前にお冷やのグラスを置く。
ついついやってしまう愛華姉とのいつものやりとりだ。
…『姉ちゃん』じゃなく『兄ちゃん』とやってる気分になるけど。
本木愛華…愛華姉。
さっき説明した俺の叔母で、喫茶『コミック』の女主人。
背丈は俺と香織のちょうど中間ぐらいで、背中まである長い髪をいつも三ツ編み1本にまとめている。
接客してる時は丁寧で女らしい口調だが、普段は接客時より声のトーンが低く男みたいな喋り方だ。
…喋り方は兄貴であるオヤジの影響かなぁ…?
「…それで?今日は何の漫画を持ってくのかな?香織ちゃん」
愛華姉が香織を見てそう尋ねると、香織は一瞬驚いた様子で目を見開いた後、
「…やっぱり解ります?」
と苦笑いをしながら答えた。
「そりゃ香織ちゃんが来た時は、いつもマンガを持ってくか返すかするからねぇ」
愛華姉はクスッと笑ってカウンターからホールに出てきた。
「…で、何っつー漫画?」
愛華姉に代わって俺がそう尋ねると、香織は苦笑いをしたまま気まずそうに答えた。
「…それが覚えてないんだよね、その漫画のタイトル…」
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