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ただ婚約者と言っても、内実は口うるさい家庭教師だった。
「君のために本を買ってきた。次に会うときまでに読んでくれ」
と、分厚い本をよこしてきた。外国語の辞書と本を渡されたこともある。またあるときは、
「思いやりのない言動はつつしみなさい。思いやりのない人のそばには、同じように思いやりのない人が集まる。それは君の人生にとって、よくないことだ」
と、真剣に説教してきた。確かにそのとおりとライリーは思った。
「豪華なドレスで身を包むのもいい。けれど中身がなければ、ただのしゃべる人形だ」
と、辛辣な口調で言ったこともあった。美しく着飾るのは、貴族の女性の仕事のようなものなのに。でも、そのとおりかもしれないとも思った。約十五年前に即位したクンツ国王により、この国の社会はどんどん形を変えていく。
しかしエルマーは口うるさすぎる。ライリーは何度、
「うるさい! 私のことは放っておいてよ」
と、さけんだか知れない。
ライリーがいらいらと部屋の中を歩き回っていると、扉が開いてひとりの男が入ってきた。エルマー・シュヴァルツが帰ってきたのだ。
エルマーは、濃いこげ茶色の瞳と黒の巻き毛を持つ青年だ。顔はほどほどによく、女性にもてる容姿をしている。なぜこんな小娘の婚約者をやっているのか、よく分からない。
エルマーはあせった表情をしていたが、ライリーを見るとほっとした。
「エルマー、これはどういうことなの?」
ライリーは怒ってさけんだ。しかしエルマーは、うれしそうに顔をほころばす。
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