悲劇1 生と死の繰り返し

2/6

99人が本棚に入れています
本棚に追加
/28ページ
 ラルスは言う。オーラフ国王は、国の根幹である貴族制度と国教のアウィス教を捨てるつもりだ。それも、わが子のわがままを聞くために。エルマーの手が震える。自制しないと、腰の剣を抜いてラルスに切りかかってしまいそうだ。 (この軽薄な王子は、美しい少女リーディアと王立学校で出会い、ライリー様を捨てた)  王立学校は本来、貴族の男子しか入学を許されない。しかし今は、平民でも女性でも学校に通える。そのせいで学校は、恋のばか騒ぎの場になっているという。  ライリーは学校内でラルスに振り回されて、リーディアと何度も対決した。ライリーは嫉妬に苦しみ、自制心を失っていった。ライリーの友人たちは、ライリーをいさめずに彼女をあおった。 「ライリー。長くアウィス教の守護者だったフォーゲル家には、つらい時代が来るだろう」  ラルスの声には、じゃっかんの優しさが含まれていた。しかしそのあわれみは、エルマーとライリーの神経を逆なでするものだった。 「君とフォーゲル家には、国王暗殺未遂の容疑がかかっている。よって君に、名誉ある死を命じる」  濡れ衣を着せられて殺される。予想していたことなので、エルマーもライリーも驚かなかった。ただ怒りだけが、エルマーの胸の中で吹き荒れた。ラルスさえ、リーディアさえいなければ……!  侍従のひとりが、ライリーの前に進み出る。彼は、毒杯をのせた盆を持っていた。ライリーは気丈にも、それをにらみつける。けれど彼女の肩が震えている。エルマーはもう耐えられなかった。十七才の少女に自死などできるはずがない。  けれどライリーは、あきらめたように力を抜き立ち上がった。そして唐突に、エルマーの方を振り返る。エルマーは驚く。ライリーはほほ笑み、泣いていた。 「私の忠実なる黒の騎士(シュヴァルツ・リッター)、ずっとそばにいてくれたことを感謝します」  エルマーはあわてて、ひざをついて頭を下げた。このような言葉をかけてもらうとは思っていなかった。
/28ページ

最初のコメントを投稿しよう!

99人が本棚に入れています
本棚に追加