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「顔を上げなさい。発言を許します」
エルマーは顔を上げて、泣きそうになった。ライリーは自分の死を受け入れている。今回も彼女を守れなかった。
「何度でもあなたを探し出し、あなたのために生きます」
エルマーは、しぼり出すようにしてしゃべった。言葉の意味を、ライリーは分からなかっただろう。彼女は悲しくほほ笑んだ。ライリーは今、エルマーの忠言を聞かなかったことを後悔しているのかもしれない。
ライリーとエルマーは別れを惜しむように、見つめ合った。この一瞬が永遠になればいい。けれどライリーはエルマーに背中を向けると、毒杯を受け取った。
「アウィス神よ、おろかな私を受け入れてください。今、あなたのみもとへ参ります」
彼女はつぶやいて、一気に飲みほした。ライリーの体が力を失い、床に崩れ落ちる。エルマーはこらえきれずライリーのもとへ駆け寄り、彼女の体を抱きしめた。
エルマーの目から、涙がこぼれる。涙が、ライリーの安らかな死に顔を汚してしまう。それでもエルマーは、おいおいと泣きわめいた。誰もエルマーの行動を止めなかった。
「黒の騎士、君の話は聞いている。フォーゲル家ではなく、ライリー個人に仕えている騎士だと」
ラルスの声は酷薄だった。しかしエルマーには、どうでもよかった。
「騎士の分をこえて、ライリーに私と距離を置くように何度も進言したそうだな。すぐさま婚約を、自分の方から破棄するようにも。――君は何者だ? 君には何が見えている」
ラルスの声には、いくばくかの恐怖があった。王子に仕える騎士たちが、剣を抜く音も聞こえる。それでもエルマーは床に座り、泣き続けた。まだあたたかいライリーの体を抱きしめ続けた。生きあがくつもりはなかった。
「ライリーはアウィス神のみもとへ旅立った。君もそこへ行きたいだろう」
残酷な王子の声とともに、エルマーは複数の剣によって殺された。自分の血がライリーを汚してしまうことだけがつらかった。
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