3月 ホワイトデー

5/7
前へ
/39ページ
次へ
「変わらず仲良くいましょうって、変に気持たせるようなものじゃなければ、なんだっていいだろ」 「……菓子折り、とか?」 「人数多いならそれもいいんじゃないか」  涙の跡のように頬に残る雫を指先で拭えば、興味がなさそうに賛同していた涼介がふっと口を噤む。自然と伏せられた睫毛の細い影に、自然と喉が鳴った。 「涼介は? 欲しいもんとか、ねえの?」 「俺? ……、別に。なにも」  迷うように揺れた視線がちらりと俺を見上げ、やっぱりやめたとばかりに、ソファの背もたれへと注がれる。明らかに、何かを隠した態度だ。 「なに、今の間」 「考えたけど何も思いつかなかった」 「本当に?」 「嘘吐いてどうすんだよ」  ふっと可笑しそうに笑った涼介の、俺の首に回る腕に少し力がこもる。するならさっさとしろと、誤魔化すそれに流されるか否か悩む頭は、じっと強請る瞳に呆気なく崩れ落ちた。  待ち侘びる唇が、触れる寸前にふるりと震える。  なんとなくチョコレートの味を彷彿とさせる、甘く柔らかい舌の感触が、どちらからともなく熱っぼい息をつかせた。
/39ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加