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* * *
それから数日後の、ホワイトデー当日。
「やだ。聖司くん、わざわざ用意してくれたの?」
約束通り涼介が選んでくれた菓子折りをお返しとした俺に、バイト先の先輩はもちろん、常連の人も喜んでくれて。
「ごめんね。お礼のつもりだったんたけど、気を遣わせたんじゃない?」
「あぁ、いえ。大丈夫です」
選んだのは涼介なので、なんて言えない俺の曖昧な愛想笑いに、彼女たちはふと、含みのある笑みを浮かべた。
「でも、彼女さんには悪いことしちゃったね」
「え?」
「大きなヤキモチが」
悪戯な笑みで自身の耳のすぐ下を指差した彼女に、反射的に手のひらでそこを押さえてから、やってしまったと目が泳ぐ。
目敏い彼女たちの楽しそうな笑い声が響いた。
「彼女さんに、謝っておいてくれる?」
「あー……、いや、はい。素直じゃない奴なんで、すみません」
嫉妬なんてしていないし、気にもしていない。そんな顔をしていたくせに、わざわざ俺からは鏡越しでも見えにくい位置に痕を残すなんて。
なんとも思っていないような顔をしながらベッと舌を出す涼介の、耳先だけ赤い不器用な表情が脳裏に浮かんだ。
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