7人が本棚に入れています
本棚に追加
「1時間半」
「は?」
「1時間半だけ待って。片付けして用意するから」
とうとうパサつき始めたパンの最後を口に放り込んで、答えに窮する聖司の返事を待つ。否は絶対にないとしても、果たして素直に頷くだろうか。
「……、ありがと」
「、」
「車借りれるか、電話してみる」
「……、ん」
そんなに、行きたい場所だったのか。
あんまり素直なその反応と、少し浮かれたような声が意外で、いそいそ部屋に戻っていく背中を見送るしかできない。
「……俺が言っても、出ないくせに」
季節も天気も問わず、気分が乗らないときはテコでも動かない聖司を思い出して、なんとなくモヤっとする。
誰の入れ知恵か、はたまた何を見たのか知らないが、大嫌いな梅雨時でも出かけたいなんて、負けた気分で悔しくなっても仕方あるまい。
誰に言うでもない言い訳と愚痴を胸中で呟きながら、俺は冷めた珈琲で乾いたパンを押し流した。
最初のコメントを投稿しよう!