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「ただいま」
2月14日、バレンタインの夜。
普段と変わりなく夕食の準備をしている時に聞こえた、ガチャリと扉が開く帰宅の音に、俺はハンバーグを煮込む火を小さくして玄関を覗いた。
「おかえり。荷物、大丈夫だったか?」
「あーうん。ありがとう。なんとか」
ガサッと両手に提げた紙袋を掲げて見せた聖司が、重たそうにそれをリビングに運び入れる。
ちらりと覗いた色とりどりの包装紙は、義理2割の本命8割と言ったところか。
「冷蔵庫入んないぞ、それ」
「もういいよ。この辺置いとく」
有難いとか嬉しいとかいう感情すら置き去りに、とにかく重たいものを放り出したいと、欲のままに聖司が紙袋をソファの脇に2つ並べる。
中学の頃から見慣れたこの光景に、今更何かを思うことはない。
「来月、全部返す必要あると思う?」
先月2人で買い物に出た時に涼介が買ったマフラーを大事そうに解きながら、聖司が疲れた目を細める
「誰から貰った?」
「友達とバイト先の先輩。あと店の常連客とか」
「……最悪、友達は流していいだろ」
「ん。分かった」
リュック、コートと1つずつ荷物を降ろした聖司が、どっかりとソファに腰を下ろし、背凭れに頭を乗せる。バイト終わりの聖司から香る甘い匂いにも慣れてしまった俺は、その疲れた様子につい声を滑らせた。
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