7月 七夕

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「傘さすの下手か。髪、濡れてんぞ」 「へ。っ、」  入り口の屋根の下。傘を閉じた聖司の指に前髪を掬われ、その端からぱちりと弾けて消えた雨粒に息がつまる。  普段なら絶対にしないようなことに驚きから羞恥へと変わった感情は、俺に聖司を振り向くことを躊躇わせた。 「置いてくぞ」  ぶっきらぼうな声が俺を急かす。ぷるぷると動物がそうするように傘を振って水を弾き、巻いたそれを傘立てに入れてその背を追った。 「にしても、なんで急にプラネタリウム?」  土砂降りではないといえど雨の日なのに、意外と客が多い。  懐かしいと浸る間も無く先を行く聖司の背を追う俺に、振り向いた聖司が5ページほどの薄いパンフレットを差し出した。 「1度でいいから、ちゃんと見せたかったんだ」 「え?」 「綺麗な天の川」  どうぞと係りの人に案内され、得意げな顔をする聖司にその詳細も聞けないまま、施設の中へと足を踏み入れる。  季節も天気も関係ないそこは、まだ明るく何も投影されていないというのに、酷く幻想的な世界に見えた。
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