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「七夕ってさ」
指定された席を見つけて腰掛けた聖司が、周りを気にするように小さく言葉を落とす。隣に座っていなければ聞こえないようなそれに、俺は返事を躊躇った。
映画館とは違う、声を出せない空気が漂う。
「どうやっても梅雨に被るから、基本雨じゃん。なのにお前、毎年見れなかったって泣き喚いてたの思い出して」
「……、そんな昔のこと」
「なんかふっと思い出したんだよ。今年も雨だっていうから、まぁ、1度くらい いいかなって」
まるで俺たちを待っていたみたいなタイミングで、室内の照明が落ち始め、世界の色が変わる。
七夕限定と銘打った投影は、人工と分かっていても美しく、今夜の空には見えなかっただろう天の川が、本当にすぐ目の前に広がっていた。
「……、興味ないくせに」
始まって数十分ですぅすぅと寝息を立て始めた隣の気配に、俺は起こしてしまわないよう、そう声を潜ませる。
気持ちよさそうに眠る聖司の隣で見た天の川は、思い描いていたよりもうんと、眩しく思えた。
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