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「贅沢なやつ」
「うん?」
「欲しくても貰えないやつもいんのに。貰いすぎで疲れるとか、贅沢な悩みだなと思っただけ」
思えば、中学の頃からこの時期の聖司はこんな感じだった。今よりももっと接点がなかったゆえに話はしなかったけれど、キッチンにはずっとチョコレートがあって、時々、優美さんの許可を得て食べたりもしていた気がする。
聖司の知らないそんな記憶にくすくすと笑みを零しながら、聞こえたギ……ッと皮の軋む音に、つい視線を動かす。甘えるような聖司の目が、じっとこちらを見ていた。
「俺も、欲しくても貰えないやつの1人なんだけど」
うぐっと、顔が緊張と後悔に歪むのが分かった。
中学からのイメージがある俺は、恋仲になった今でも、聖司にバレンタインのチョコを渡したことがない。
男同士でそんなイベントごとに乗じるのはどうなのかという疑問と、今更という気恥ずかしさの板挟みになって動く気をなくしているだけ、とも言うけれど。
「……これだけ貰っといてまだ欲しいとか、贅沢が過ぎるんじゃないか」
「本命は別だろ」
「本命も混じってる。その中に」
「俺の、本命から欲しいって話なんだけど」
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