2月 バレンタイン

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 飽きもせず、よく毎年同じことが言えるものだ。  小さな火で煮込んでいるハンバーグを意味もなくひっくり返して、睨むようなその目から顔を逸らす。  焦れた聖司の足音が、すぐ側で止まった。 「今年もくれねえの?」 「……だから。あれだけ貰ってんのに、今更俺のとかいらないだろ」 「いるっつの。俺、毎年言ってるんだけど」  俺だって毎年同じこと言っている。そう言いかけて飲み込んだのは、今年こそは逃さないという聖司の圧を感じてしまったからかもしれない。  気まずさについ目を逸らし、昨夜の残りのシチューをくるりとかき混ぜる。  俺だって、絶対に渡したくないというわけではない。女の子だらけの店に行かずとも家で作ることくらい出来るし、そうすれば聖司が喜ぶだろうことも、ちゃんと分かっているけれど。 「……、……お前が」  ちらりと振り向いた視界の端に、膨らんだ紙袋が映る。  決して嫉妬ではない。嫉妬ではないけれど、あれがなければ、もう少し素直になるくらい──。
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