3月 ホワイトデー

2/7
前へ
/39ページ
次へ
「あ、涼介」  日中ともなればいよいよ春らしさを感じ始める3月頭。丸い月がぽかりと浮かぶ、ホワイトデー数日の前の夜。  ソファに座り珍しく雑誌をめくる涼介を見つけた俺は、ぽたぽたと水の滴る髪をタオルで拭いながらその隣に腰掛けた。 「おい髪、」 「すぐ乾かすから。それより、なぁ」 「っ、なに」  しれっとした顔で雑誌を見つめる涼介の指が、ぴくんと震える。警戒と期待が交互に揺れる空気感がおかしくて、俺はつい芽生えた悪戯心のまま、2人掛けのソファに空いた微妙な距離を詰めた。 「っ、おい。狭い……っ」  雑誌を閉じ、ぐっと胸を押し返す手の力は明らかに弱い。俺は、涼介の期待を感じさせるそれに膨れ上がる悪戯心に従い、静かに顔を寄せてみた。 「……、……ッ」  ぎゅうっと肩をすくめ、困った様子で眉を下げていた涼介が、観念したように固く瞼を閉ざす。  キスをされると身構えるそれが可愛くて、おかしくて、だけど本来の目的のためとあっさりその体を離した。 「ホワイトデーのお返し、なにがいいと思う?」
/39ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加