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「あ、涼介」
日中ともなればいよいよ春らしさを感じ始める3月頭。丸い月がぽかりと浮かぶ、ホワイトデー数日の前の夜。
ソファに座り珍しく雑誌をめくる涼介を見つけた俺は、ぽたぽたと水の滴る髪をタオルで拭いながらその隣に腰掛けた。
「おい髪、」
「すぐ乾かすから。それより、なぁ」
「っ、なに」
しれっとした顔で雑誌を見つめる涼介の指が、ぴくんと震える。警戒と期待が交互に揺れる空気感がおかしくて、俺はつい芽生えた悪戯心のまま、2人掛けのソファに空いた微妙な距離を詰めた。
「っ、おい。狭い……っ」
雑誌を閉じ、ぐっと胸を押し返す手の力は明らかに弱い。俺は、涼介の期待を感じさせるそれに膨れ上がる悪戯心に従い、静かに顔を寄せてみた。
「……、……ッ」
ぎゅうっと肩をすくめ、困った様子で眉を下げていた涼介が、観念したように固く瞼を閉ざす。
キスをされると身構えるそれが可愛くて、おかしくて、だけど本来の目的のためとあっさりその体を離した。
「ホワイトデーのお返し、なにがいいと思う?」
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