第2章 空の歪み

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するとそこには、俺が今まで生きてきて観たことのない風景が広がっていた。 表現できる言葉が頭の中から消え、8ミリ映写機のモノクロ映画を観ているような風景に変わった。 かなり昔の記憶のようで、親父がシーツをスクリーン代わりにして映写機を回していた・・・ でも、内容が思い出せない、ただ何か昔の感覚が胸を熱くするが… そんな気持ちを打ち消すように、空から真っ黒いものが落ちてきて、大きな爆破音と共に、目の奥が真っ赤になっていく錯覚に襲われた。 「はー、はー」と深くため息を吐いた。 我に返り、ゆっくり眼を開いてみた。 するとそこには、おぞましい風景が待ち構えていた。 テレビ塔の様なビルにつながり2、3キロぐらいの道程に何かが順序正しく並べられていた? 遠くばかりを観ていたせいか 「そのもの」を確認していなかった? それは紛れも無く「人」であり屍であった。 転々と並べられた屍は、一番近いもので約五、六メートル先にあった。 屍は道路両端に置かれている。 直視したくないが、不思議と意識するようになってから目入り、避けることが出来ない。 意志はあまり伴わないが足が動き出していた。 何故死んで、何故ここに置かれているのかわからないが、置かれている屍は穏やかな顔をしていた。 頭の片隅で、何処かで観た様な?感じたような?気がした。 「そうか・・親父・・」 と訳のわからい独り言を口走っていた。 穏やかな屍の顔を見て、親父の葬儀が思い出された。 親父は身体が弱く、若くして結核を患い、肺が一つ無く、肩甲骨にそって大きな縫い目があった。 見るだけで痛々しく感じられた。 そんな親父だったが、身体を惜しまず仕事に、付き合いに精を出していた。 親父は俺の誇りだった! しかし、片肺の無い親父にとって、楽ではなかったようだ。 酒と疲労から肝臓が弱り… 風邪の菌が肝臓に入り込み肝硬変から肝臓癌となり… 一カ月で死んでしまった。 五十六だった。 死、直後は赤黒い顔色だったが、埋葬の時は顔色も良く、穏やかな表情をしていたことが思い出された… 道路に並べられた、死体の顔から首を見ると、何か着けているのがわかった。 不思議にその先の人も、その先の人も、同じようなリングを着けていた。 そのとき突然エンジン音が聞こえ、余儀なくブルドーザとトラックが手前の曲がり角から現れた。 その車は屍を見て、想像通りの事をしはじめた。
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