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僕が狭山瑞紀と初めて遭遇したのは、高校の入学式だった。
向こう1、2年の成長を見越して仕立てられた、真新しい制服に袖を通した僕たちは、誤魔化しようのないほどに、どこからどう見ても、ピカピカの高校一年生だった。
知らない顔ばかりが埋める体育館は、中学校のそれと比べて、随分と広く感じたのを覚えている。
『新入生代表、挨拶』
抑揚のない低音で発せられたその言葉に応えて、その人は席を立った。
壇上に向かって歩んでいくその姿を目で追いかけている内に、そこはかとない違和感を覚えた。
なんだかやけに、華奢な男だ。というのがその人に対して抱いた第一印象だった。
用意してきたであろう原稿用紙を拡げる、カサカサ、という乾いた音が、静まり返った体育館に響く。
「…うららかな春の光に誘われ、ーーーーー」
一呼吸置いて、紡ぎ出された言葉は凛としていて、どこまでも届きそうな透明感に満ちていた。それと同時に、先程の違和感の正体に行き当たる。
自分と同じ真新しいブレザー、真新しいスラックスに身を包んだその人が、女の子であることに、その時初めて気が付いた。
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