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僕と瑞紀は同じクラスだった。
入学して暫くの間、瑞紀はクラスの話題の中心だった。
色素の薄い髪の毛を、ベリーが付くほどのショートカットにした、男装の女の子。
周りの女子たちが、肉体的にも、精神的にも、日々"女"へと変貌を遂げていく中に在って、それに抗うような瑞紀の存在はとことん異質で、刺激的だった。
"性同一性障害" "レズビアン" "男女" "フタナリ"
瑞紀に対して付けられたこれらのあだ名は、その言葉そのものが内包する意味を飛び越えて、分かりやすい蔑称として、彼女に向けられた。
「狭山さんってさ、男と女、どっちを好きになんの?」と、にやけながら聞いた女子生徒の名前は、今となっては思い出せないけれど、それに対して瑞紀が放った言葉を、僕は忘れられない。
「もしもあなたが、私に対して優しかったのなら、あなたのことも好きになれるのかも知れませんね」
手入れされていない眉をピクリとも動かさず、淡々と言った瑞紀とは対照的に、その女子生徒は顔を真っ赤にして、悪態を吐きながら踵を返した。
それ以来、彼女に対して直接ちょっかいを出す者は誰もいなくなったが、同時にクラス内での彼女の孤立は、目に見えて明らかになっていく。
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