将之×知己 甘々(?)小説

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将之×知己 甘々(?)小説

「大変です、先輩。起きてください」  連日夜遅くまでかかってのテスト問題作りが祟ってか、知己はその日、将之から起こされるまで目が覚めなかった。 「ん? どうした?」  寝坊でもしたかと、ベッドサイドの時計を確認する。 「あ……れ?」  知己の手は空を切った。  そこには時計はおろか、ベッドも何もない。  昨夜 「もうこんな時間か。明日の為に少し寝よう」  とヨロヨロと入った寝室ではなく、ただのほの暗い空間に将之と二人だけ居る。 「なんだ? ここ」  辺りを見回すと、目が少し慣れてきたのか、壁らしきものや上には天井があるのが分かる。  そして、さっきまで自分が横たわっていた床。  それだけ。  何もない、ただ外と仕切られた四角い部屋。  この「何もない」というのが異質だった。  生活していく空間にしろ仕事をする空間にしろ、何かしら家具はあるものだが、これほど何もないのは不気味だった。  そして、極めつけはドアがない。  これが一番異質だった。  窓もなければドアもない。  一体、どうやって自分たちはここに連れてこられたのか? 「仕様ですね」 「仕様?」 「僕もさっき目が覚めて、驚きました。ここ、よくある『SE●しないと出られない部屋』みたいです」 「はあ?!」  突然の話に、知己が普段より1オクターブ高い声を上げた。 「だから、『S●Xしないと出られない部屋』なんです」 「なんだ、その『セ……しないと出られない部屋』ってのは?」  将之につられて、うっかりR18用語を言いそうになり、知己は慌てて言葉を濁した。  将之の方は、特に気にせず 「まんま、ですよ。僕達、何かの企画か誰かの陰謀で『●EXしないと出られない部屋』に閉じ込められたようです」 「そんなのアリか?」  未だ事態が飲み込めていない知己が、声の張りなく言う。 「割と二次ではアリですね」  将之の方は、この摩訶不思議な現実をあっさりと受け止めているようだ。  知己は将之の言う「二次」とやらは分からないが、すかさず 「ふざけんなー!」  と一喝した。 「今日はテスト問題締め切り日だぞ! 今日、間に合わなかったら何のために俺が連日残業&夜更かししたのか! これまでの努力が意味ないじゃないか!」  続けざまに叫ぶ。  誰に言うわけではないが、これまでのストレスが怒りに転じ、それを叫ぶことで吐き出していた。 「まあ、こうなったからには仕方ないですよね」  嫌に良い笑顔を見せる将之。  下心、見え見えだ。 「うう、不本意だが仕方ない。ここを早く出るためだ」  諦めたように知己が答えた。  こんな形でのS●Xはどうかと思うが、ここに閉じ込められたのが将之と一緒で良かったと思う。  これなら少なくとも1時間後には外に出られるだろう。 「……」  ニコニコと嬉しそうに微笑むだけの将之に 「おい、何をしている?」  知己は不思議そうに声をかけた。 「さっさとしろ」 「何をです?」 「S●X。あ」  うっかりR18用語を言わされ、知己は将之を睨む。 「やだなぁ、そんな臆面もなくS●Xをおねだりしないでくださいよ」  白々しく照れて見せる。 「お前、な……」  ひっかけたくせにと知己は将之を睨んだ。 「それに、あからさまなのは逆に萎えます」 「ふざけんな。さっさと来い」 「嫌です」 「は? 嫌って……。何、言ってんの? お前……」  将之の考えが分からない。  大喜びで、するものだと思っていたのに。 「外に出られなくていいのか?」 「まあ、ぶっちゃけそうですね」 「そうですねって、おい!」 「よく考えてください。僕らって割と日常茶飯事的にS●Xしている訳で、こんな機会でもないとできないカップルとは違うんです」 「あ?」 「逆に考えてみましょう。『●EXしないと出られない』ってことは、S●Xさえしなければずっと居ていいんですよね?」 「え?」 「だったら、やりようはいくらでもありますよね。お互い触るだけとか絶対大丈夫だろうし、口とか素股もきっとセーフ」 「セーフって……」 「ここには門脇くんもいなければ、クロードさんも居ない。ましてや宿敵の家永さんも居ない。しかも、誰も入ってくることのできない空間なんです。もう、ずっとここに二人だけで居てもいいって思いません?」 (何なんだろうな、こいつの超ポジティブ思考は……) 「思わない!」  将之の嬉しそうな勧誘を、知己は即座に否定した。 「ばかやろう! さっきから言っているだろ?! 俺は今日、這ってでも仕事に行かなくちゃダメなの! だから、やることやってさっさとここを出ていくぞ」 「何をです?」 「だから、セック……! あ!」  またもや知己にR18用語を言わせる罠をしかけ、にやりと笑う将之に 「もう、その手は食わない!」  左右からワンツーパンチを繰り出したが、この至近距離で頭振るだけで避けられて、知己はますます苛立った。 「この際です。ちゃんと誘ってください」 「ちゃんとって……?」 「ちゃんと誘えたら、やりましょう。先輩の全力のおねだり、楽しみです」 「はあ? もう、何を言っているんだか……」  知己が呆れると 「ほらほら。早く出たいんでしょ? 僕は全然このまんまでもいいんですけど」  将之が嫌な笑顔で催促する。 「くっ……!」  知己が言葉に詰まる。  しばらく逡巡した後 「将之……」 「はい」 「して……くれ」  目を伏せながら、目の前の男にできるだけ感情を押し殺しつつ言った。  この場合の感情とは、撲殺とかそういった凶暴な類のものである。 「わ、いいですね。その控えめな感じ」  知己の気持ちも知らずに将之ははしゃぐ。 「今度はパジャマのボタンを一つ二つ上から順番に外しながら、言ってください」 「(……ちっ!)」 「今、舌打ちしました?」 「し、してないぞ!」  ここで将之の機嫌を損ねられても困る。  先ほどは一緒に閉じ込められたのが将之で良かったと思ったが、 (前権撤回だ。この男と一緒で、最悪!)  ここぞとばかりにスケベシチュの要求に、知己はうんざりした。 (だが、これもテストの為!)  知己の社畜魂、いや学畜魂に火が付いた。  生成りのコットンパジャマのボタンを、上からゆっくりと外しつつ 「なあ、将之……、俺、もう我慢できない……」 (将之のスケベ根性に、我慢できない)  あながち嘘ではないと知己は思う。 「今日は、お前の好きなやり方でいい」 (今日だけ! 今だけ! 明日から絶対にさせない) 「早く……して、ほしい……」 (できるだけ、早く済ませろ!) 「おお、やればできるじゃないですか!」  褒められてもちっとも嬉しくないのは、気のせいではない。 「今度は、下だけ脱いで僕の方に昔はやったM字開脚をしてください」 「M字って……」 (調子に乗りやがって!) 「何か言いました?」 「……いや」  仕方なく、パジャマのズボンと下着を一緒に脱ぎ、将之ご希望のM字開脚とやらをしてみる。 (な、なんだ、これ。恥ずかしいな、チクショウ)  ボタンを外したパジャマの上衣がかろうじてそこを隠すものの、あまりの布地の少なさに赤面する。 「な、将之……、もういいだろ?」  ここで怒ってはダメだ。  知己の頭の中には「我慢」の二文字があった。  将之の機嫌を損ねたら、ここまでしてきたすべての羞恥おねだりの数々が水泡と化す。 「もうちょっとだけ、サービスしてください」 「(サービスって……?) 俺、これ以上……我慢……できないよ……」  フルフルと怒りで肩が震える。  まだ、これ以上何かしろと言うのか。 「せっかくなので、『愛してる』とか言ってくれないかなぁ」  思いがけない言葉に 「はあ?」  知己が気の抜けた返事をした。 「こんな機会でもないと、言ってくれないでしょ、先輩は」 「……」  いったん、詰めてた息を吐き出す。 (もうこいつ、絶対殴るって決めてたのに)  なぜか逆に強請ってきている将之が愛しく思えるのは、なんなのだろう。  きっとこの閉鎖的な空間が、自分の感覚をおかしくしてきているのだろう。  そう、今だけ。  この変な空間だけ。  ちょっとだけなら、いいんじゃないか。  そう思って、知己はゆっくりと 「……将之、愛してる」  と言った。 「本当ですか? 僕もです」  いやにはっきりとした将之の声に 「……え? あれ?」  知己は戸惑う。 「先輩、寝呆けてます? もう時間ですよ。起きてください」  将之に声をかけられ、知己は目を覚ました。  見回すとそこはいつもの寝室で、時計は起床時刻を指していた。 「昨夜、寝るの遅かったんでしょ?」 「あ、うん……」 「なんだか、ずいぶんうなされていましたよ」 「え……うなされて……?」  あの薄暗い部屋で将之と二人閉じ込められたのは、夢だったのか。 「あれは、夢……だったのか」  夢だと分かって、安堵する。  が、先ほどの突然の将之のリアルな返事。  あの声に起こされたのだ。 「……」  嫌な予感がする。 「あの、俺、もしかしてなんか言ってた?」 「え? ええ」  将之が取り繕った笑顔で答えるが、それが夢で見た嫌な笑顔に重なる。 「例えば、どんな?」  知己は恐る恐る尋ねた。 「ええっとですね。『将之、してくれ』とか『俺、もう我慢できない』とか『好きな体位でしていい』とか」 「わ、わー!? わー!? マジで?!」  羞恥のおねだり言葉が、全部寝言になっていただなんて。 (最悪だ……)  知己は頭を抱えた。 「はい、もう僕びっくりで。一体、どんな夢を見ていたんです?」 「いや、それは……言えない」  SE●しないと出られない部屋に閉じ込められていたなど、口が裂けても言えない。  「そうですか。まあ、言いたくないのなら無理にとは言いませんが」  珍しく将之があっさりと引き 「じゃあ、僕は朝ごはんを作りますね」  そっと立ち何かを隠して、寝室を出ていこうとした。 「ちょっと、待て。今、何を隠した?」  怪しい行動に、知己は反射的に将之のパジャマの裾を掴んだ。 「なんでもないです」 「なんでもないのなら、見せろ」 「嫌です。これはダメです」  将之の手には、携帯が握られていた。  それを見て、知己が察した。 「あ、お前! さては、さっきの俺の寝言を録音したな!」  将之が一瞬どんな表情をしたものやら、困って固まる。 「普段、便利機能を一切使いこなせないくせに、なんでこんなことだけはできるんだ?」  わしわしとパジャマを掴んで、将之を引き寄せると 「火事場のなんとやらって奴ですか? あの寝言を聞いていたら、自分の能力以上に携帯を使いこなせていました」  携帯を両手で握りしめて、将之が必死で守っている。 「貸せ!」 「嫌です! ダメです! これだけは! 貴重な先輩の『愛している』発言なのに」 「!?」 (最悪だ! あの寝言まで聞かれた上に録られていたなんて!)  その後、朝から二人でベッドの上で半ばプロレスごっこのように携帯争奪戦が始まった。  最終的には携帯を奪うことに成功した知己が、数々の恥ずかしいおねだり寝言を瞬殺で消去するのにも成功し、鼻息荒く、テスト問題を提出しに仕事に出かけたのだった。           -了ー   * * * * * * * * * * * * * * *  アンケートにご協力、ありがとうございましたー!!(*´ω`*)  追加ストーリーとして考えていた甘々話があったのですが、意外にも進みが悪く、いっそのことアリエナイシチュにしてしまおうと、全文書き直しました。おかげでこれはこれで開き直った単体の話になりました。ちょっと糖度が足りない気がしますが、まあ、その辺は目を瞑ってください。楽しんでいただけたら、何よりです。(と、いうか、書いていて私が楽しかったです!)  お付き合い、どうもありがとうございました。またの機会ありましたら、どうぞよろしくお願いします。
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