きっと

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 そう言って両手を合わせて頼み込んできたのは同期のランチ仲間で、目当ての相手が営業部にいるらしい。彼女の行動力に感心しつつ、とりあえず参加することにした。別に特別な事を期待したわけじゃなくて、そろそろ退屈さが見えてきたOL生活に刺激が欲しかったのだ。十人前後で行く飲み会はかなり久しぶりだった。  揃った営業部の男性陣は、彼を除いて、いかにも体育会系といった感じのメンツだった。逞しい身体。大きな口。たくさん喋るし、グイグイ、ガツガツしている。営業で培った能力を遺憾なく発揮しているのか。大きな熱気球が膨らんでいくみたいに、飲み会は盛り上がっていくのに、私はすっかり気圧されていた。  あれ、こんな感じだっけ?  呼吸する息さえ熱い。話を振られても上手く答えられなくて、心はしぼんでいくようだった。  男性陣が軽快なトークで女性陣のウケを攫っていく脇で、彼は、ただ話を聞いてニコニコしながら頷いていた。かと思えば、不意に体育会系メンズからイジられたりして、その様子から、この人の愛されるキャラクターが十分に伺われた。猫背で、色白で、中肉中背。柔らかい声におっとりとした話し方。蒸しパンみたいに丸い輪郭、少し短い眉、笑うと皺が寄る小さな眼、色も厚みも薄い唇。そう、ゆるキャラっぽい感じだ。積極的に会話に入ってくるわけではなく、その場にいるだけで雰囲気を和ませるような感じがある。彼に話が振られたとき、私は安心して息が出来る心地がした。     
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