アリーの故郷

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 絶滅危惧種の動物たちは死なせてもらえない。アリクイも絶滅危惧種であるがゆえに、いまアリクイのアリーは脳死状態の植物アリクイになっていた。  人間の、 「種の保存のため」という口実のもと、「けっして死なせるわけにはいかない」という論理だった。  人間の環境保護政策の一環で手厚い予算が配分され、植物アリクイは温度といい湿度といい、快適な空間で寝ごごちのいいベッドが与えられ、栄養豊かな状態を保つ生命維持装置が装備され、アリクイのアリーの命はいつまでも存続することになったのだ。  人間はそれを理想化していたけれど、アリクイのアリーは大地を踏みしめることも蟻を食べることも、草原の空気を吸うこともできず、青い空を見ることもできず、昇る太陽も沈む太陽も見ることもなく、日の光を浴びることもなく、夜空を仰いで満天の星を見ることもなかった。  アリクイのアリーはただその命を保ち、遠い宇宙に向かって心を羽ばたかせていた。  素粒子はある現象のいろいろな側面を顕現している。素粒子は物ではなく、現象の現われに過ぎない。現象の現われによってさまざまな素粒子が、量の多寡、エネルギーの多寡などによって顕現する。  2018年の夏、アリクイのアリーの夢は天の川銀河を飛び出し、はるか47億光年先の宇宙へ羽ばたいていた。  オリオン座の神々は言った。 「どこへいくんだ?」  アリクイは無言だった。  ω星団のその先に着くと、天の川銀河の神々が言った。 「どこへいくんだ?}  アリクイのアリーは無言だった。  無言で羽ばたくアリクイのアリーの周囲をニュートリノが包んでいた。 注:ニュートリノとは、もちろん素粒子の一つで、 「他の素粒子との反応もわずかで、ほとんどまったく物質と反応しない、相互作用しない、物質を透過する性質が強いといえる。その観測によってノーベル賞を受賞したのは、0 ではない質量があるので、ごくごく稀にしか反応しない、その反応を測定できたからである」。
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