GENKEN物語

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 富貴もまた、その変転の一部に過ぎない。それにこだわる心こそが、全ての苦しみの原点なのだと。  そのこだわりを離れることが出来れば、苦しみは自然と、人の心から離れていくだろう。  彼は、それによって、心が楽になった。  ならば、彼は、どうすれば、心が楽になるのだろうか。  彼、東丈が、不機嫌なのは間違いない。眉間にしわを寄せて、しかめつらしい顔をしている。もっと、愛想よくしないと、女の子にもてないぞ、女の子が、怖がって逃げてしまうに違いない。せっかくのハンサムが大なしだ。でも、彼はまだ、女の子よりも、もっと別の楽しみがあるのかもしれない。  青林学園中等部の三年生。来年は、自動的に高等部にあがることが決まっているから、ほかの学校の生徒のように高校受験とかで、目が三角になっているわけではないようだ。  何かが、彼に起こっているのは間違いない。顔の前にかかってくる逆さの鶏冠のような髪を邪魔そうに頭を振って交わそうとするが、これがお気に入りの髪型なので、切ろうとはしない。 ”うぬぬ・・”足が速いかどうかは議論の分かれるところだが、そのフットワークが機敏なのは間違いない。彼の小柄な体からすると、自然といえるかもしれない。  六角形の白黒の模様の球をけり、相手を交わす。 すた、すたた・・ 「これで、二人・・」  ちょっとした足裁きだが、それで、球が自由自在に動く。長くは続かなかったが、それでも小学生のころ柔道をやっていたのが効果があったのは間違いない。  右に左に体を揺らし、相手をけん制する。  した・  そして、前のやつが開いた足の間を球を転がして抜く。  そのまま、回り込んで、その球を取り戻す。 「いけ、いけ、いっちゃええ」  歓声 「もちろん」  あと一人。ゴールの前に陣取る。  でも、そいつも、球しか見ていない。  右か、左か。左だな。 すっぱーん!  勢いではない、むしろコースだ。  丈は、自分の非力さを知っている。だから、技術が全てだ。  本来、サッカーはチームプレーだとわかっている。  しかし、それでも、丈は、彼の知るブラジルのペレとかのように個人技で、パスを受けたら最後、必ず、なんとしてでもゴールまで持ち込むことに自分の全てを賭けていた。 「決まった~~」 「よっしゃあ!」丈は、こぶしを握った。
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