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「兄貴、また、点を上げたんだって?」学園に戻ると、大柄な弟の卓が、二階のような高さから声をかけてくる。
「ああ、もちろんさ」丈の鼻息は荒い。
サッカーは、チームワークだというが、所詮は、点数を入れるスターの引き立て役に過ぎない。俺にボールを回してくれれば、後はなんとしても前線に駆け上がり点を入れてやる。それが丈のサッカーの全てだった。文句は言わせない。
「また、相手のチームの後衛を怪我させたんだって?もう、ここまで情報はいっているぜ」
「相手が下手なんだよ。あの程度で受身も取れないなんてさ」
「そうかもしれないが、あれ、わざとだろ」兄貴の”せこい技”を見知っている卓はいった。
丈は、勝つためならどんな汚い技も、審判に見えないように使ってみせる、その点では天性のセコさを持っていたからだ。
「でも、監督が使ってくれるのは、俺が点を取って勝てるからじゃンか。勝てばいいんだよ、勝てば!」
「なんか、典型的な悪漢レスラーみたいになってきたな、兄貴、人相悪くなってるし」
「はん、人相で飯が食えるなら、誰も苦労はしない」
「まあ、そうかもしれないけどさ。なあ、兄貴、ここだけの話、普通、少年漫画の主人公ってもっと、その品行方正なものじゃないのか?」
<楽屋話>
「ほかの漫画は知らないよ。そういうのがいいのなら、手塚治虫を読んでればいいのさ。おれは、なんとしても、のしあがってやる。いいよな、卓、おまえは柔道の天才で、学問もできるし。俺とはまったく違うわけで。いっそ、この漫画の主人公になるか?」
「まあ、これがスポ根まんがなら、いいけど・・どうも違うみたいだからね。タイトル、”魔法大戦”だろ?それ、何か、オレの守備範囲じゃない気がするんだよね」コマの外の上のほうを見た卓が言った。
「いったい、どんな話なのか。原作が平井和正、マンガが石森章太郎なんて。原作は確か、あの8マンだろ、で、マンガはサイボーグ009・・どうみても、スポ根ではない気がする」
「そうだよな、むしろSFって分野」
「空想科学漫画か、どうなることか」
「でも、触れ込みは痛快明朗SF漫画ってことでやっているんだ、なんとかなるんじゃないか」
「なんだかな、兄貴のその性格、いいと思うよ。それくらいの根性じゃないと、この漫画世界を生き抜いて行けないかもしれない。期待しているよ」
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