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アイーシャは涼しげな顔を崩さない。
服を脱ぎ湯に浸かる。
やはりアイーシャは涼しげな顔を崩そうとはしない。
「アイーシャ」
「はい、ご領主様」
「無粋だ。出ていけ」
「差し支え無ければ、ご領主様の剣を磨きとう存じます。不馴れである事は重々に承知しております、ですが誠心誠意に……」
「アイーシャ」
「はい、出過ぎた真似をお許しくださいませ」
「うむ」
同じ顔をしたままでアイーシャが退室していく。
私はその横顔に一種の倦怠感らしき物を覚えつつ、無言のままで見送った。
いっその事、彼女を遠ざけてしまおうかと思う。
だが、それと同時に、とある野望が脳裏によぎるのだ。
『いつの日か、あやつの才を使いこなせてみせよう』と。
この時の私は彼女の事をみくびり過ぎていた。
決して制御できるような存在では無いことを、この時はまだ知らない。
風呂が終われば食事である。
ここでもやはりアイーシャは甲斐甲斐しく、そして過ぎた奉公に明け暮れた。
「食前酒として、希少なる口噛み酒をご用意致しました。私めの唾液を使用しておりますので、世に2つとない代物にございます」
「ご領主様。食後にパイはいかがでしょうか。右の物、左の物。お好きな方を存分にお愉しみくださいませ」
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