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何やら生々しさを覚えるような音であるが、階上の部屋より漏れ伝わったように感じた。
明らかにあらぬ方から聞こえてきたからだ。
ーーヒタリ、ヒタリ。
音がゆっくりとこちらに忍び寄ってきた。
近い。
やがて私は1つの極めて重大な事実に気づく。
ーー音は、部屋の中で生じている、と。
慌てて手探りでマッチを探し、ランプに火を灯す。
それから暗がりに映し出されたのは……。
「アイーシャ!」
「ウフフ、ケヒヒ」
「そこで何をしている! 立ち入るなと言っただろう!」
「だからぁ、立ち入ってはいませんよぉぉ」
天井に張り付いて侵入することは、果たして『立ち入る』行為に含まれるのか。
私は刹那、思考を巡らせかけたが、すぐに我に返る。
この場はともかく、眼前の執着心に囚われた女への対処が最優先課題なのだ。
「退け! さもなくば、我が剣の錆びにしてしまうぞ!」
「ウフフ、デヒヒ。存分に、あなた様の剣で、貫いてくださいませぇ!」
アイーシャはまるで蜘蛛が滑空するかの如く、ベッドに降り立った。
そしてこちらの腰に向けて突進を仕掛けてきたのだ。
両の瞳からは正気の光は感じられない。
私は舌打ちしつつ剣を抜き放ち、鋭く振り下ろした。
狙うは右の腕。
痛みを切っ掛けに冷静さを取り戻そうとしたのだが……。
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