有能すぎたメイド

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有能すぎたメイド

ーー下人を雇う際は、その人となりを見定めよ。無能すぎれば災いを為し、有能に過ぎれば家名を蝕み、更に甚大な災いを及ぼすであろう。 これは前当主である、我が父の言葉だ。 父が領内経営に腐心したのも過去の事。 数年前には隠居し、お気に入りの妾たちを引き連れ、地中海沿いの別荘に引きこもるようになった。 その馬車列の長さは異様であり、すれ違う人々を大いに驚かせたと聞く。 母はすでに亡く、他兄弟も隣国に勤めているので、相談役が周りに居ない。 時おり父の判断を仰ぎたくなるが、それは止めておいた。 今の当主は、他ならぬ私である。 統率者とは孤独であるべきなのだ。 かつての父の背を追いかけるようにして、己に鞭入れる日々が続いた。 そんなある日、私は1人のメイドを新たに雇った。 名をアイーシャという。 年の頃は24、近隣の村出身の美しい女である。 彼女はかつて神童と称えられた程の人物であり、身の回りの些事はもちろん、武芸百般で地理にも明るい。 私はつい戒めを忘れ、その女を雇い入れた。 それが後に災いを呼ぶ事になったのだから、この時の迂闊さについては言い訳すら出来ぬというものだ。 アイーシャは極めて優秀であった。     
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