6人が本棚に入れています
本棚に追加
有能すぎたメイド
ーー下人を雇う際は、その人となりを見定めよ。無能すぎれば災いを為し、有能に過ぎれば家名を蝕み、更に甚大な災いを及ぼすであろう。
これは前当主である、我が父の言葉だ。
父が領内経営に腐心したのも過去の事。
数年前には隠居し、お気に入りの妾たちを引き連れ、地中海沿いの別荘に引きこもるようになった。
その馬車列の長さは異様であり、すれ違う人々を大いに驚かせたと聞く。
母はすでに亡く、他兄弟も隣国に勤めているので、相談役が周りに居ない。
時おり父の判断を仰ぎたくなるが、それは止めておいた。
今の当主は、他ならぬ私である。
統率者とは孤独であるべきなのだ。
かつての父の背を追いかけるようにして、己に鞭入れる日々が続いた。
そんなある日、私は1人のメイドを新たに雇った。
名をアイーシャという。
年の頃は24、近隣の村出身の美しい女である。
彼女はかつて神童と称えられた程の人物であり、身の回りの些事はもちろん、武芸百般で地理にも明るい。
私はつい戒めを忘れ、その女を雇い入れた。
それが後に災いを呼ぶ事になったのだから、この時の迂闊さについては言い訳すら出来ぬというものだ。
アイーシャは極めて優秀であった。
最初のコメントを投稿しよう!