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二人で録音用のブースに向かう。狭いながら音録りの為の録音ブースがこの会社にはあった。と言っても声優さんの録音は専用のスタジオで行う事がほとんどの為使われる事は今はめったにないのだが。
樹が歌い始めるのを機材に向かいながら見つめる。
歌声を聞いた瞬間ゾクリとセックスの最中のような高揚感が背中を伝った。
この短時間でここまで歌いこなすのか。
樹の声に包まれるような感覚になりながら思った。
自然と口角が上がる。
樹が俺の為にここまでしてくれるとは思わなかった。
所詮は若気の至りで片づけられてしまう感情なのかも知れないと思っていた。
だからこそ、怖くて樹に不安をぶつけた。
でも違うのだ。樹は俺を愛してくれている。
それが歌声に乗って俺に届く。
優越感とも、執着心とも違う穏やかなそれでいて甘い感情がジワリジワリと湧き上がる。
樹が歌い終わるまで身じろぎひとつできなかった。
それほど彼の歌には力があった。
曲が終わると何の反応もない俺に心配して樹がブースから出てきた。
心配そうに見上げるその瞳を見ると高ぶった感情からジワリと涙がにじんだ。
「ありがとう。俺の為に歌ってくれて。俺を愛してくれて。」
年の差とか環境の違いとか、男同士だとかそんな事は全部、全部大した事じゃなくて、ただただ感謝とそれから愛おしい気持ちで一杯だった。
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