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樹は最初はきょとんと俺を見返していたが、その後、少々パニックに陥った様で「でも」とか「顔が」とか言っていた。
「顔はメイクするなり隠すなりどうしても嫌なら方法はいくらでもある。」
樹の前髪をそっと、かき上げながら言った。
すると樹は
「ミヤさんも出てくれますか?」
今ではめったに言わなくなった俺の歌い手としての名前で訊ねた。
「樹がやりたい事の為だったら、俺はいくらでも協力するよ。」
俺がそう返すと樹はふにゃりと笑った。
「お、俺出てみたいです。」
早速二人でオファーのメールに返信した。
ライブに出ると決めた時、俺が樹の支えになるつもりだった。
まさか逆に足を引っ張る事態になるとは思いもよらなかったのだ。
◆
最初にそんな発言があったのが、いつの事なのか今になっては良くわからない。
恐らく、どこかのSNSあたりでそんな発言があったのであろう。
【歌い手のミヤはホモだ。】
そんな書き込みが徐々に増えていき、目撃談と称する書き込みも俺自身がアップした動画やそれとシェアされているSNS上に散見される様になっていた。
目撃談とされるものの、ほぼ全てが嘘である事が俺は分かっている。
ミヤとして活動を始めて以降、誰かと外で手を繋いだ事もキスをした事も、ましてラブホに男と入った事も無かった。
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