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月形さんの使っているフレグランスはいかにも女性向けの甘いものだ。
「俺、女の人には興味ありませんよ?」
「樹に、やましいところが無いっていうのはさっきの返答分かってるよ。」
圭吾さんは自嘲気味に口角を上げた。
「……謝られたんです。」
「何を?」
「友達がネットにゲイ疑惑を書き込んだって。」
圭吾さんは眉をひそめた。
だけど、それだけで慌てたりショックを受けたりしている様子は無かった。
「済みません。」
俺が頭を下げると、そこで初めて圭吾さんは少しだけ慌てた様だった。
「俺の大学で二人で居る所を見られたみたいです。
俺がヴィーって事もばれてたみたいなので……。
もっと気を付けるべきだったのに済みません、圭吾さん今が大事な時なのに。」
俺が言うと、ひゅっと息を飲む音が聞こえた。
それからギュッと抱きしめられた。
「俺は俺自身がゲイだって事はそれほど気にしちゃ居ないよ。
元居た会社にはばれてるんだ。そこから洩れる事だっていくらでもあるし。
俺が気にしてたのは、樹の将来の事だ。」
「俺の将来?」
オウム返しに返すと抱きしめられたまま耳元で「そうだ。」と言われた。
「歌手になるなら、俺が足枷になりたくないと思ったんだ。」
見上げた圭吾さんはとても優しい顔をしていた。
ただ、耳だけが少しだけ赤かった。
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