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1、ひろう
例えばすぐ隣に人が立っていて、「やぁ」と声をかけてくる。その声さえ聞こえないし人がいることすら気づかない。それぐらい激しい豪雨だった。
夏服にかわったばかりの制服のスカートが濡れて、じわじわと体温を吸い取っていく。傘は持っていたが、ダンボール箱を抱えていたせいで上手く差せなかった。手がかじかんで指先に力が入らないが、この箱だけは落としてはいけない。それだけを考えて家路を急いだ。
一戸建ての我が家までたどり着き、玄関の鍵を開けようとする。しかし中身のわりに大きなダンボール箱が邪魔で上手くいかない。
衝撃を与えないようにゆっくりと床に箱を置き、急いで鍵を開ける。
リビングの床にダンボール箱を下ろし、閉じていたフタをおそるおそる開く。それは箱の真ん中で丸まっていた。
拾ってしまったのだ。子猫を。
それは通っている高校からの帰り道だった。雨は降っていたが、まだ小雨だった。
「ミィ」と鳴き声が聞こえた。初めのうちは気のせいだと思ったが何度も聞こえたので、辺りを見回し、耳をすました。雑草の生い茂る道路わきから聞こえていた。
そこにはフタを閉められたダンボール箱が隠れるように置かれていた。
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