後藤さんちの拓海くん

4/6
前へ
/6ページ
次へ
するとそこには、30代くらいの美しい女性が立っていた。 彼女の手にも白い花が握られている。 女性は一礼すると、私に話しかけて来た。 「私、後藤華子の妹で、亜紀と言います。」 「ああ、妹さんですか?道理で似てらっしゃると思ったわ。私、近所に住んでいる宮里と言います。この度はこんなことになって。お悔み申し上げます。」 「いいえ、こちらこそ。姉がご迷惑をおかけしまして。」 「とんでもない。火事は仕方ないですよ。後藤さんちは離れていてどこにも燃え移ってないですし。」 「いえ、たぶんそれだけではなく、姉が生前さぞご迷惑をかけていたのではないでしょうか。本当にすみません。」 「とんでもない。後藤さんはいつも穏やかで温和な方でしたわ。ところで、拓海君は元気?」 「・・・拓海・・・ですか?」 亜紀さんはキョトンとした顔をしていた。 「あなたからしたら甥っ子になるのかしら?後藤さんの息子さん。」 亜紀さんは明らかに困惑していた。 「姉に子供はいません。」 「えっ?」 「死産だったんです。男の子だったんですけど。」 私はわけがわからなくなった。確かに拓海君は存在したのだ。 後藤さんも、男の子が生まれたと幸せそうに報告したではないか。 「で、でも・・・。時々、家の中から声が・・・。」     
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加