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「それって、もしかして、奇声ですか?」
亜紀さんからそう言われて、ドキっとしたが頷いた。
「きっと子育て、大変だったでしょうね・・・。」
私がそう言うと、亜紀さんが唇を噛んだ。
「それは、姉の声です。」
「えっ?」
亜紀さんの話によると、産まれる前から男の子だとわかっていたので、拓海と早くから名付けて、後藤さんはその誕生を楽しみにしていたのだと言う。しかし、結果死産だった。その日から、後藤さんは精神を病んでしまったのだと言うのだ。死産を認めず、拓海君は存在しているものとして生活をしていたそうだ。
だが、時に現実に戻ることがあって、その時に耐え切れず、彼女は奇声を発するのだと言う。
それを私達近所の人間が、勝手に拓海君の声だと勘違いして噂していただけなのだ。
初めから拓海君は存在していなかった。
私は、その事実を聞かされて、胸が痛んだ。
どうして後藤さんが、あんな穏やかで美しい人がそんな目に。
私があらためて、手を合わせて彼女の死を悼んだ時に、突然叫び声が響いた。
驚いて顔を上げると、目の前に黒い影がユラユラと揺れていた。
その腕の中には、黒く焦げた塊が抱かれている。
「ご、後藤さん?」
私は直感的に、それが彼女だと感じて、そう口に出していた。
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