1.帰路

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1.帰路

 粉雪の混じった風がコートの裾をはためかせ、寒さに思わず身を縮めた。暦の上では既に春とはいえ、三月の夜はまだまだ寒い。特に今夜は例年に無い冷え込みだということで、この地域にしては珍しく、路面には雪がうっすらと積もっている。  この寒さから逃れるために一刻も早く暖かい自宅へたどり着きたいと思う一方で、家で妻と顔を合わせることについて気が重いと考える自分もいた。今朝、家を出る前に喧嘩したばかりなのだ。  出会った当初から妻は、自分は霊感を持つ家系の出だと公言していた。妻自身も、はっきりと霊が見えるほどではないものの、霊的なものが近くにいるとその気配を感知することができるのだという。唐突に、ここには何かいると言い出したことも一度や二度ではなく、周囲の人間に気味悪がられてもいっこうに改める様子は無かった。  彼女の霊感についてお前は本当に信じているのかと問われれば、躊躇無く頷くことはできない。しかし彼女がそういう人間であるということは十分に承知した上で結婚を決めたので、自宅に何かいると言い出されたところで、特に気にするつもりは無かった。  しかし、それがまだ幼い娘の前でとなると、話は別である。  そうでなくとも、幼児というのはお化けを怖がるものなのだ。妻の言葉をどれほど理解できたのかは不明だが、娘は号泣し、私は思わずカッとなって、いい加減にしろと妻を怒鳴りつけてしまったのだ。  子供を怖がらせるような言動は慎むべきという点については、頭が冷えた今になっても考えは変わらない。  しかしなにも、いきなり怒鳴りつけることはなかったかもしれない。  ――家に帰ったら、まずは妻に謝ろう。  雪に足を滑らせないよう気をつけつつ、そんなことを考えながら家路を急ぐ。
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