1.帰路

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 それにしても、今夜は本当に寒い。この分だと、家にたどり着く前に体温を根こそぎ奪われてしまいそうだ。そういえば、もう少し先へ行ったところに自販機が設置されていた記憶がある。そこで何か温かい飲み物でも買って、少しでも暖を取ろう。  幸いにして私の記憶は正しく、前方に自販機の明かりが見えてきた。  ――できれば、ホットレモンティーがあると良いな。  そんな期待を持って自販機に近づいた私は、自分の運の無さに溜め息をつくことになった。商品一覧の中にホットレモンティーはあったものの、既に売り切れていたのだ。 いや、レモンティーだけではない。既に三月だからか、それとも元々そうなのか、ホット商品の数自体が少なく、そしてその全てが既に売り切れてしまっていたのだ。  逃した魚は大きいという話ではないが、自販機のことを思い出す前以上に、温かいレモンティーが欲しくてたまらなくなった。しかし無いものは仕方がない。 幸いにして、ここまで来れば自宅まではあと少しだ。家にさえたどり着けば、温かいものを好きなだけ飲むことだってできる。  多少の未練を引きずりながらも、自販機に背を向けて歩き出す。雪の混ざった風が、正面から顔に向けて吹きつけてくる。一瞬、視界が真っ白になった。
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