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ぞわり、と。突然、体の芯から妙な寒気が這い上がってきた。
なんだ?
妻と違って、私には霊感などというものは無い。それにも関わらず、すぐ近くに何かがいるような気がした。周囲を見回そうとして、視界の端に映ったあるものに気を取られる。
すぐ横の路傍に、花束が供えられている。今の今まで、まったく気がつかなかった。
「昔ね、ここで交通事故があったんだよ。知らない?」
唐突に背後からかけられた声に、ぎょっとして振り向く。いつの間にか、自販機の前に制服姿の少女が立っていた。
「ただでさえ道の状態が悪かった日に、よりにもよって飲酒運転をしていた人がいて、歩行者に突っ込んだの。酷い話だよね」
「あ、ああ」
寒気が増してくる。何かが、脳をちくちくと刺激した。私は……私は、その話を知っている?
いや、違う! 私は、そんな事故の話など知らない!
「被害者は即死だった。今日がね、その命日なの」
少女はこちらに背を向けていて、その表情を窺い知ることはできない。
ガタン、と音をたてて、自販機の取り出し口に何かが落ちてくる。少女はそれを手に取ると、こちらに向けて差し出してきた。
「これが、欲しかったんでしょ?」
温かいレモンティー。どうして。さっきは確かに、売り切れていたのに。
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