序文

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NH3619.B.58.2U13.R 彼女の個体識別番号はそれである。   末尾にRが付くのは戸籍上 ‘鴻志崎’ や ‘五条’ の苗字を与えられる人々だが、Rは遺伝子の組み合わせ、法則のひとつであり、俗に『モーガン系』と呼ばれる。 呼び名の由来は、かつての旧帝国大学でモーガン・ジャクソン博士が開発したと言われているからだ。 この国における選民種族は全部で5種類存在するが、『モーガン系』は遺伝子研究史上、後期に現れた人々で、高度な知性と、感情の起伏があまりない、冷静な気質が特徴とされる。 たぐいまれなインテリジェンスはとくに言語力に発揮され、ゆえに『モーガン系』の人種は歴代の外務大臣や外交官を多く輩出している。 それはこの極東の小さな島国が、先の世界大戦以降、国際社会で列強に引けを取らず、都度の交渉の舞台でも優位に立つことができた最大の要因であり、『モーガン系』の紛れもない功績と言える。 一方で、全体数は選民のなかで約12%ともっとも少なく、そのわりに結束力がほかの人種と比べて低い。 現在、鴻志崎一族や、五条一族が衰退し、選民のあいだでも影響力が希薄になっているのは、この良くも悪くも淡泊な種族性に端を発しているとも言える。
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