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◇◇◇
夕暮れ、ギルド『虹の果て』では医務室の窓から橙色の光が緩く差し込む。
フラガが帰った直後に眠りについたイヴァンはふと起き上がる。もう怪我は完治していた。
一眠りであらゆる怪我が治るのは流石の勇者補正と言うべきか。朝には鈍痛で起き上がらなかった肉体が意のままに動く。
「……よし」
体は動く、されど暇だ。なら動こう。
健全な肉体と暇を持て余したイヴァンは勇者的思考回路で『虹の果て』内を探索しようとベッドから降り――
「入るぞー」
――ようとした瞬間、ノックもなく気怠げな男の声と共に扉が開いた。
「ああ……?」
本当に完治していても短時間で全快したなど余人からすれば到底信じられないこと。
元気なのに追加で絶対安静を言い渡されては堪ったものではない。床に下ろそうとした脚を急いでぬくもりが残る毛布へ戻す。
出入口に視線を向けると、そこにはスライムを肩に乗せた黄緑色の髪の少女が立っていた。他に人影は――ない。
はてな、男性の声は一体何だったのかと首を傾げていると少女はその体躯に不釣り合いな胸を揺らしながらトコトコとイヴァンの元に歩いてくる。
すると、奇妙なことにその後ろを果物入りの籠がぴょこぴょこと付いてくる。
傍からすると軽い恐怖だが勇者たる彼女にとっては驚くような事態ではない。
魔術か何かだろうと適当に推察したところで、扉が開いた際と同じトーンの声が聞こえてくる。
「おいアンタ、何処見てんだ?」
「…ん?」
声につられて視線が自然と下に向かう。果物籠の下だ。
しかし、相手の背が低すぎるのか姿が中々捉えられない。ベッドから身を乗り出して更に視線を落とす。
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