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◇◇◇
ヴァルザード王城、執務室。
宵闇の中、貧乏性なのか必要最低限の灯りだけが蝋燭に灯され、国王に光を届ける。
痩せぎすの手指が淡々と羊皮紙を捲る。年間の収穫量をまとめた書類だ。
近日中に国内で作物の収穫が始まる。どの地域からどれ程、どんな作物が収穫され、王都に運び込まれるのか確認せねばなるまい。
毎年、近年は収穫の時期が近付けばずっとこうしている。財務と農業を任せていた臣下はもういない。
「……」
声にもならないため息を吐く。
人の出来心とは、どうにもならないものである。自身に人徳がないことも重々承知している。
時に揺らめき瞬く灯火には目もくれず淡々と業務を熟す。
それでも他国からの侵略は往々にして起こるものだ。悲哀と絶望の中で苦しみ死んでいく民を見過ごすことは、できない。
特に最近はブノーマの侵略活動が国内で確認され始めている。大規模な襲撃が来るとすれば収穫中、あるいは収穫直後。
姿も形も見えない敵の予想を覆す手段は様々だ。収穫時期を早める、遅くする。農民に騎士やギルド員を交え、偽装して襲撃に警戒させる。堀や防塁を用意する。
後先を考えなくても良いならば、農地を焼き払い、井戸に毒を放り投げ農地から王都に向けて疎開させる。詰まる所、国家としての規模を縮小させ、守りやすくする。
兵糧を捨てることが、この世界でどれほど愚かな行いか分かりきっていることだが…。
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