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蝋燭の灯りが届かない暗黒に頭を向ける。
「近くにいるから君を優先しただけに過ぎない。それで、どんな用事だね」
「ああ、それなら手短かに話すか。用事は主に三つ。
まずヴィグザム学園の校長が不穏だ。もしかすると近日中に学園に襲撃がある」
「ふむ。こうして態々報告に来たということは君が対処することはできないのか。それで?」
「『白き英雄』を閑職にして欲しい。ブノーマの本拠地と思しき場所に見当がついた。偵察したいんだが、この状況だからな」
ぴくり、としかめ面の眉が反応する。
「……ほう」
「『サザメキ』だ。ブノーマの『大和狩り』で国家としては崩壊しているだろうがな。
それに俺が無傷で、生還してきたこと。疑念に思っている奴はそれなりにいるだろう?
閑職にした方が国王として妥当な判断だ。違うか?」
「…そう考えているのは貴族派閥だけだ。民衆は奇跡の生還に沸き立っているとも。
このタイミングで君を引き下げる訳にはいかない」
候補の一つに入っていた本拠地の情報に驚きもせず、淡々と返す。
「だが、土壇場で裏切られると厄介なのは貴族だ。違うか?」
「それ以上に厄介な相手は居るさ。―――派遣は認められない。
幾ら君が英雄だとしても奇跡は続かないものだ」
「続けるさ。俺は不可能を可能にする男だからな」
そう言って白銀のカードを執務机に向かって投げる。
クラウスはそれを受け取り、嘆息気味に目を細める。
「君と云いナメアと云いランド君と云い、ポンポンと役職を辞められては困るんだがね」
「退職届じゃなくて休職届だ。代役に使い魔の天使を置いていく。
英雄にだって休暇は必要なんだぜ?」
国の一進一退―――否、存亡が関わる状況で休暇など、とても認められたものではない。
物量に勝る相手に限られた実力者を欠いてどう戦うというのか。鷹揚に頷くのは莫迦だけだ。
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