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「私にも休暇は欲しいのだがね」
しかし厭戦状態が続き、国家そのものが衰退していることもまた事実。軽口こそ叩くが、クラウスは憔悴しきっていた。
先代国王は没し、『虹の果て』が壊滅し、妻は正体不明の病に臥せり、自身も病魔に散々苦しめられた。
そこから脱却できたのは奇跡だったが、復帰したところで絶望的な状況は変わらない。
これでも貴族たちはよくやってくれている―――方だと思う。
ブノーマと内通してしまった者もいるだろうが、それでも未だヴァルザードが侵略されきっていないのは彼らの存在に依る点が大きい。
十数年前のような対処のしようがない強硬策ではなく、外堀を埋められるような丁寧な侵略。
それを完遂するには国王ではなく、貴族を丸め込む方が重要なのだ。
何者かによる暗殺でブノーマへの鞍替えを躊躇う貴族が増えたため、此処まで国家としての体裁を保てていたが、それももう限界だ。
「しかし、ここまで来て私が諦めることは出来ないさ」
「…そうか」
至極詰まらなさそうな返答。両者を隔てる暗黒がそう感じさせるのかもしれない。
目を伏せ返却されたギルドカードに視線を落とす。
「…それで、三つ目の用事はなんだね」
「なに、少し人員を借りていくだけだ。役職者を選ぶつもりはないが、一応な」
「――――返す宛てはあるんだろうな?」
怒気を孕んだ一言。執務机がギシリと小さく悲鳴を上げる。
一変した雰囲気をものともせず暗黒から「キハハ」と短い嘲笑が届く。
「違うなぁクラウス。そんな訊ね方をしても、返す宛てはあると答えるしかないじゃあないか。
こういう時はな。『絶対に貸さない』とか『必ず返せ』とか言うべきだぜ?」
「そうか」
今度は国王が淡々と返す。視線の先は『白き英雄』を象徴する純白の証に刻まれた漆黒の文字。
男は顔を挙げる。
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