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正に反射。少女からのおねだりを認識した瞬間放たれた矢のように、或いは発狂した草食獣のように飛び出していく。
「うおおおおおおおおお!! 野次馬は退けぇ!!!」
「…逃がさ…ない……!!」
「お、おい!? これから試験だぞーーー!!?」
言外に朝っぱらから体力を使うなという友人の苦言を背中に受けつつランドは人込みを掻き分けていく。
しかしその背後に追いすがる小柄な影は想像だにしない健脚で追い詰めていくのだ。
流石は風属性の使い手と言うべきか、その姿は肉食獣が獲物を襲撃するが如しである。
「ありゃ捕まったなー…」
「だなー」
二人して合掌し、友人の冥福を祈る。今までこの肉食獣塗れの学園で純潔を守り続けていた男も遂に年貢の納め時か。
ある種の感慨深さを抱きつつその様子を見送ると、その小集団は周囲をまばらに歩く学生たちに混じる。
子供たちの騒動を珍し気に見ていた大人も各々の目的に戻り、もう暫くすれば朝独特の喧騒が戻ってくるだろう。
―――だが未熟な子供たちが察する由も無かった。
『白き英雄』とも呼ばれる強者が今朝に限って学生に紛れていた理由も。
「若いとは良いな。元気なものだ」
「イリスったら家を出て何処に行ったのかと思えば――――ふふっ」
その大衆に不穏な視線が紛れていたことも。
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