アレ(試験官)を倒してしまっても構わないのだろう?

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◇◇◇ 「えーそれでは、これから選抜試験を始めます。内容は、えー単純で、一人ずつこの闘技場に居る相手と戦って合格を貰うか、時間内に有効打を当てればよい、とのことでした」  明らかに試験の詳細は知らされていない様子の女教師がおどおどと話す。 「と、当然、待機中に相手を見ることは許されていません。それから試験終了後に相手の情報を伝えることも許されていません。  これは初見の相手への対応を測ることが目的であるため、とのことです。そ、それでは番号順にどうぞ!」  彼女は気が弱い部類であるが普段からこのような調子ではない。 「………」  原因は一人の少年だった。髑髏のベルトを撒いた銀髪の少年が不機嫌そうに脚と腕を組んで椅子に座っている。  一見ただ不機嫌そうなだけだがその実、その背から隠す気のない殺気が漏れ出ていることだ。 「…おい」   一通りの説明が終わり、試験が始まると不機嫌そうにしている少年に別の少年が声をかけた。  彼は凡そ学生では使いこなせないであろう全身鎧を着こなし、武器である盾剣を携えている。  しかし話しかけられた少年は仏頂面で苛立ちを声に乗せる。 「なんであいつが居るんだよ」  その視線の先には一人の少女がいた。腰に一振りの刀を佩き、黒髪を一本にまとめ上げた特徴的な髪型。  服装も学生服などではなく、東国の伝統衣装の和服を召している。恐らく下着も東国のそれだろう。  一見美少年と見紛う程の堂々とした佇まいだが男には凡そ似つかわしくない胸がある。  その相手を認めた鎧姿の少年―――リアクトは合点が行ったように一つ頷く。 「ああ、前にお前がボコボコにした…で、それがどうしたんだ? 約束の件でなんかあったか?」 「約束ならちゃんと守ってる。ただ―――」  一際目つきを悪くすると不機嫌そうな少年―――ランドは吐き捨てるように言った。 「俺より弱いのに、何かができるつもりでいるのが気に食わないんだよ」 「お前、それは―――」  不躾な一言に友人であるリアクトも言い淀む。ランドは現在活動していないとはいえ元『無帝』。  学生ばかりのこの場から明らかに抜きんでている実力者の言葉が、悪い意味で緊張感を張り詰めらせる。 「そういう物言いは良くありませんね」 「生徒会長!?」  実力差ゆえに誰も何も言い返せない状況に否やが入る。  元『無帝』を窘めたのは生徒会長。少年のそれよりも透き通った銀色の髪を一つにまとめ、制服を召している。  間違いなく彼女もこの場から抜きんでている実力者の一人だろう。彼女は冷たい目でつらつらと反論を述べていく。 「人はそれぞれ得意、不得意がありますから。一概に強さは決められません」 「それは違う。強い奴は強い。剣を使っても魔法を使っても最高峰の実力者は両方が一流だ」 「そうですね。武器も魔法も一流な人はきっと強いでしょう。  ですが純粋な剣術勝負で貴方が彼女に勝てるとは到底思えません。  そもそも実力のある師の元で修行した貴方が、師を失い独学で修行してきた彼女を馬鹿にするのは些か嫌味が過ぎます」 「関係ないだろ、アンタには。実戦なら、剣術だけで戦う必要性なんてない。俺の方が強い」 「実戦ならそれこそ一対一で戦う必要がありません。それにこれから協力していくかもしれない相手を無闇に侮辱する貴方こそ状況を読めていませんよね?  独りではその最高峰の実力者でも苦戦するからこそ、私たちは連携して戦う必要があります。自分一人で何かできるだなんて自惚れるにも大概にしなさい」 「……チッ」  舌打ちと共に押し黙る。しかし殺気は先ほどよりも幾分か抑えられた。
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