176人が本棚に入れています
本棚に追加
/436ページ
「おっ、梶尾。おはようさん。大きな荷物だけど、終わったら、直で大阪行くのか?」
「ああ。家に帰る時間もったいないから。」
「そうだよなぁ。新婚さんなんだから、早く会いてぇわな。」
「そういうお前は、柚香さんとどこか行くの?」
「柚香には、申し訳ないけど、今年はパス。この休みの間に、ちょっとでも山積みの課題を頭に入れたいんだ。お前みたいに、頭がよくないからな。」
「何言ってんの、佐野の方が頭いいに決まってんでしょ。なんだかんだ言いながらも、結果残してるんだから。
もし俺が、そう見えてるんだとしたら、とんだ間違いだよ。俺も努力してるだけなんだから。自分で自分を追い込むくらいじゃないと達成できないから、がっついてやってるだけなんだよ。
結果的に、今のところは躓かないでやれてるだけ。それだけだよ。」
「…そうなのか。」
「そうだよ。なあ、佐野。お前さぁ、もっと自分に自信持てよ。大学の時から、俺の背中、お前は、何度も押してくれたよな。俺よりも、考え方は、ずっと大人だと思うんだけどな。
結局さ、俺達、お互いに無い物ねだりしてんだよ。」
佐野とは長く付き合って来た。その分、俺は、多分、恋人の柚香さんよりも、こいつを知ってる。
いつでも笑顔で、前向き。普段の軽いノリに加えて、冗談も嫌味なく言えるセンスは、俺には真似できない。他人は、そこだけ見て、底の浅いやつだとか、軽薄だとかチャラいとか言うけど、こいつの本質を見てないよ。
こいつは、努力家だから、ちゃんと形に出来る男さ。ただ、自分の能力値の高さに気付いてないだけなんだ。
だけど、今は言わない。言ったら、調子に乗るからな。
「まあ、そう言うことだから、気にすんな。佐野は、佐野らしく生きていきゃいいのさ。」
俺は、にこやかに、そう言ったんだ。
最初のコメントを投稿しよう!