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仕事は、定時に終わった。俺は、速攻で、社長室へ走った。
「…では、失礼します。」
ちょうど佐野が、仕事を終えて、社長室から出て来るところだった。
「…はあはあ。佐野ぉ、社長…まだいるよね?」
「おう、中にいるぞ。」
「Thank You。…ちょっと、私的な用事。」
「いいんじゃない。もう定時過ぎてんだし、仮にも義理のお父上なんだから。」
そう。内の会社の社長は、俺の義理の父…つまり、夏蓮のお父さんだ。
コンコンコン♪
「…梶尾です。よろしいですか?」
とは言え、ここは、会社だから、形だけでも公の態度を取っておかないと、周りに示しが着かない。
「入りたまえ。」
「失礼します。」
扉が後ろでパタンと閉まると、中は二人きりだ。
「佑樹君、何かな?」
「お忙しいのにすいません。明日からの予定を一応、お知らせしておこうと思いまして。」
「明日からの?」
「はい。夏蓮に会うのを楽しみに待っていらっしゃるのを知っているのに、こんなお話は、何なんですが…明日から、少し旅行へ行こうと思いまして。」
「夏蓮と二人でかい?」
「はい。」
「わざわざ言いに来なくても、電話ですむのに…。ありがとう。気を使ってくれて。」
「恐縮です。」
「そんな固くならなくてもいいよ。今は、仕事の時間じゃないんだし。
ところで、佑樹君。旅行、どこへ行くのか教えてくれるかね。」
普段の社長としての厳しい顔じゃなく、優しい父親の顔でそう聞かれたら、答えないと悪い気がする。
「あっ、前に関西へ旅行に行ったときに、ベイサイドの高いところから、紀伊水道挟んだ四国が見えたんです。その時に、夏蓮が行ったことないって言ったんで、いつか行こうって約束したもので。」
「そんな約束していたのか。うんうん、いいね、佑樹君。楽しんでおいで。家へは、いつでも帰ってこられるんだから、時間のあるときに、顔だしてくれたらいいから。夏蓮にもそう言っておいてくれないか。」
「はい。ありがとうございます。」
なんだか、肩の荷が降りたみたいで、ちょっとホッとしたんだ。
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