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少年にとって悲しみの表情は最高だったのに、なぜだろう。少年の顔から笑みが見られない。それよりも、イライラを募らせているようだった。
『なんなんだよ、なんでっ』
その原因が知りたくなり、少年は母親の後ろをついていく。母親のスピードは、家に近づくごとに早くなっていく。
「会いたいっ、ひよりっ」
何がこの母親をそこまで駆り立てるのか。それは、あの女の子だということが少年にもわかっていた。けれど、少年はなぜ自分がイライラしているのかがわからなかった。
母親は、ついに家までたどり着いた。ドアを勢い良く開けると、すぐさま女の子がいる部屋へと駆け上がる。ドンっ
「ひよりっ」
「マ、マ?お、かえりな、さい」
椅子に座って、おとなしく女の子は絵を描いていた。それは、目の前にいる母親の絵だ。
「私のこと、ずっと待っててくれてたんだよね」
「うん、待ってた」
女の子の声は、ずっと静かに流れる川のように穏やかだった。なぜ置いて行ったのだとか、一人で寂しかったなどそんな言葉を投げはしなかった。
「ごめんね、ひより。ママが悪いよね」
「大丈夫、ママ。あたしが、ママのそばにいるから」
母親が女の子に近づくと、力いっぱいに女の子を抱きしめた。母親が泣いていることに気づくと、小さな手で母親の背中をポンポンと叩いてみせた。
その光景を見て少年は、なぜイライラしていたのか理解した。
『俺が望んでいた姿…。なんで、それなのに死のうとしたんだ』
「たぶんね、あたしもパパも好きだったから。大切な人がいなくなって、耐えられなくなったの」
少年の声が漏れていたのだろう。女の子が、母親から離れて少年のいるほうへと歩み寄った。
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