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「大丈夫か?」
「大丈夫?」
俺と深紅が同時に問うと、呉羽はゆっくりと頷いた。しかしその動きは緩慢で、先刻までの覇気が薄い。碧い瞳に薄い影が落ちたのは、貧血の影響だろう。
「身体が辛いんだろう? 背負っていってやる」
「いい。少し立ち眩みがしただけで、蒼麻の手を借りる程酷くない」
「そんなに意地張ることないのに。また俺が抱えてあげるって」
「深紅まで……いいと言っているだろう。自分の足で歩ける」
「よくない。また倒れるぞ」
「そうだよ。ほら、俺が責任取るから……」
「……っ五月蝿いっ! いいと言っているだろうっ、この鈍感どもっ!」
俺と深紅の言葉に交互に答えていた呉羽は、突然怒鳴り出し、頬を微かに朱に染めた。暴れるように、俺達の手を振り払いながら。
そして、万全ではないその身で駆け出した。三人の中で一番身軽で走るのが得意な呉羽は、あっという間に遠くなっていく。気付けば傍に見えていた、重々しい鳥居の向こうへと。
「呉羽っ!」
叫んだのは、何方の口だったのか解らない。俺も深紅も、慌てて地面を蹴った。
人間の子どもにとって、夜がどれほどの脅威になるか、俺達は知っている。だから急いだ。白金の髪を、既に闇の奥に見失っていたからだ。
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