月紅心中ーげっこうしんじゅうー

10/16
前へ
/16ページ
次へ
「大丈夫か?」 「大丈夫?」  俺と深紅が同時に問うと、呉羽はゆっくりと頷いた。しかしその動きは緩慢で、先刻までの覇気が薄い。碧い瞳に薄い影が落ちたのは、貧血の影響だろう。 「身体が辛いんだろう? 背負っていってやる」 「いい。少し立ち眩みがしただけで、蒼麻の手を借りる程酷くない」 「そんなに意地張ることないのに。また俺が抱えてあげるって」 「深紅まで……いいと言っているだろう。自分の足で歩ける」 「よくない。また倒れるぞ」 「そうだよ。ほら、俺が責任取るから……」 「……っ五月蝿(うるさ)いっ! いいと言っているだろうっ、この鈍感どもっ!」  俺と深紅の言葉に交互に答えていた呉羽は、突然怒鳴り出し、頬を微かに朱に染めた。暴れるように、俺達の手を振り払いながら。  そして、万全ではないその身で駆け出した。三人の中で一番身軽で走るのが得意な呉羽は、あっという間に遠くなっていく。気付けば傍に見えていた、重々しい鳥居の向こうへと。 「呉羽っ!」  叫んだのは、何方(どちら)の口だったのか解らない。俺も深紅も、慌てて地面を蹴った。  人間の子どもにとって、夜がどれほどの脅威になるか、俺達は知っている。だから急いだ。白金の髪を、既に闇の奥に見失っていたからだ。
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!

20人が本棚に入れています
本棚に追加