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境内でも散らばるように、そこかしこに地面に立った紙灯籠が、いつしか紅い花を照らしている。社まで続く石段を囲うように広がる、大量の彼岸花を。
その情景に感嘆する暇もなく、とにかく呉羽に追いつこうと、俺達は必死だった。
しかし、一段上がるたび、ぞわりと全身に寒気が立っていく。神聖なはずの社の奥から匂いが漂ってきたからだ。嗅ぎ慣れた、濃厚な錆びた匂いが。
長い石段を抜け、本殿が見えた時、おぞましいものが俺の五感を埋めた。
生臭い鉄の匂い。液体を啜る耳障りな音。赤い染みが滴る石畳。太い注連縄の下で、細い首に必死に食らいつく影。影に食われ、障子に凭れたまま動かない、呉羽。
「くれっ……!」
「蒼麻。手を出すな」
夜風よりも冷えた命令がかかる。俺の後ろから疾風の如く社へ駆け寄ったのは、いつもの見慣れた姿とはかけ離れた、奇怪な赤い生き物だった。
人間のものではない大きな腕が、影を呉羽から剥がす。そのまま影の頭を捕らえ、爪を立て、太い五本の指で締め上げていく。
異様すぎる光景に、俺は息を呑んだ。
もう一つの姿に変容した深紅の背中。襟から覗く首も、裾からはみ出した足首も、人間には出せない鮮やかな"赤"で彩られている。恐らく今、見れば心に刻み込まれてしまう程の、凄まじい顔をしているのだろう。
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