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深紅の腕が捕らえた影は、呉羽の命を啜っていたのは、見知らぬ希少種の男。
石の如く硬そうな爪が、男の頭の皮膚にめり込んでいく。身体中から滲み出る渾身の力と共に。
その隙に、俺は呉羽の元へ駆け寄った。障子に寄りかかるか細い身体を抱え起こす。
「呉羽っ……大丈夫か!?」
「……そ、ま……?」
呼びかけてきたその二音に、俺は凍てついた。
青紫に染まった呉羽の唇は、脆弱な息を落とす。瞳は虚ろで、顔色は暗く、俺は直感してしまった。手遅れだと。呉羽はもう、助からない。
「そう、ま…………しんくは……」
「……其処に」
返事のついでに、俺は振り返る。
痛み故に意識を奪われたのだろう、赤い手に圧迫された男は、だらんと腕を下ろして動かない。
力を失くした男を社の外へ投げ捨て、容貌と肌の色を戻していく深紅。俺達が見慣れた姿に戻った途端、紅い瞳は、慌てながらも呉羽を見つける。
「しん、くっ……!」
血色の良くない華奢な手が、深紅の着物の裾に、弱々しくしがみつく。
「呉羽っ……」
「しんくっ……わ、わたし、の、ことっ……」
今にも消えそうな碧い光が、深紅を見つめる。紅の瞳を。深紅だけを。
「わたし、を……こ……ころ、してっ……」
「……は? こんな時まで笑えない冗談? そういうの、もういい加減っ……!」
「ちがうっ……!」
深紅を捕らえる弱い瞳と手に、ぐっと力が籠る。
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