月紅心中ーげっこうしんじゅうー

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「……気を失ったのか。今日は」 「うん。気を付けてたつもりだけど、今日は加減が出来なかった。でも勿論、命に関わる程は貰ってないよ」  深紅の手が、小さいしなやかな身体をしっかりと抱え直す。名宝にでも触れるかのように、微かな震えを宿しながら。 「死んじゃうと俺も生きていけないからね。蒼麻の血は頂けないし」 「不味(まず)いだろうしな。俺の血なんか」 「そうかな。一度くらいは頂戴してみたいけど」 「深紅。死にたいのか?」 「それが嫌だから味見できないんだよ」  月が溢す光を浴びながら、深紅は笑った。俺とは違う紅色の瞳に、微かな翳りを纏わせて。 「……本当、蒼麻ばっかり大変だ。あんなの、未だ十三の子どもがやる仕事じゃないのに」 「仕方ない。こんな妙な体質の人間、俺くらいだからな」  通り過ぎる暗がりに溜息を捨てながら、ささやかな紙灯篭が囲う夜道を行く。  ()の世には、人間と、人間ではない者とが存在する。  人外の者達は様々な姿形をしており、人間と同じ姿を持つ者もいれば、全く異なる姿の者もおり、その二つの異なる姿を使い分ける者だって存在する。そんな彼等に共通するのは、紅い瞳と、夜行性の体質と、摂取する"食料"のみ。  “(もの)()”だの“(あやかし)”だのと、人間からは様々な呼び名を付けられているけれど、人間に比べると彼等の存在はごく稀なため、俺は“希少種”と呼んでいる。  深紅も、俺が寸刻(すんこく)前に手を下したばかりの女も、希少種の一人だ。
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