20人が本棚に入れています
本棚に追加
「……気を失ったのか。今日は」
「うん。気を付けてたつもりだけど、今日は加減が出来なかった。でも勿論、命に関わる程は貰ってないよ」
深紅の手が、小さいしなやかな身体をしっかりと抱え直す。名宝にでも触れるかのように、微かな震えを宿しながら。
「死んじゃうと俺も生きていけないからね。蒼麻の血は頂けないし」
「不味いだろうしな。俺の血なんか」
「そうかな。一度くらいは頂戴してみたいけど」
「深紅。死にたいのか?」
「それが嫌だから味見できないんだよ」
月が溢す光を浴びながら、深紅は笑った。俺とは違う紅色の瞳に、微かな翳りを纏わせて。
「……本当、蒼麻ばっかり大変だ。あんなの、未だ十三の子どもがやる仕事じゃないのに」
「仕方ない。こんな妙な体質の人間、俺くらいだからな」
通り過ぎる暗がりに溜息を捨てながら、ささやかな紙灯篭が囲う夜道を行く。
此の世には、人間と、人間ではない者とが存在する。
人外の者達は様々な姿形をしており、人間と同じ姿を持つ者もいれば、全く異なる姿の者もおり、その二つの異なる姿を使い分ける者だって存在する。そんな彼等に共通するのは、紅い瞳と、夜行性の体質と、摂取する"食料"のみ。
“物の憑”だの“妖”だのと、人間からは様々な呼び名を付けられているけれど、人間に比べると彼等の存在はごく稀なため、俺は“希少種”と呼んでいる。
深紅も、俺が寸刻前に手を下したばかりの女も、希少種の一人だ。
最初のコメントを投稿しよう!