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そのまま放っておけば餓死する。俺の血をあてにしても死ぬ。行く末が明白な状況下で、俺の足は村を目指していた。俺が天涯孤独にしてしまった少年を、生き永らえさせてくれる誰かを探しに。
大抵の人間は、希少種に己の血を捧げることを嫌う。そのまま命を吸い尽くされてしまうのではと怯えるからだ。希少種は問答無用で処分してほしい、そう望む者が大半だ。
けれど、呉羽なら、大丈夫ではないかという予感があった。この土地に不似合な容姿のせいで村の住人から敬遠され、それでも凛と前を向く彼女なら。
俺の直感は間違いではなかった。
絶対に、他の誰のことも襲わないこと。その条件と引き換えに、呉羽は深紅に血を恵み続けている。
二人の逢瀬は常に夜。村に近付けない深紅の代わりに、呉羽の送り迎えをするのが俺の役目だ。
「深紅。解っているのなら、もう贅沢はしてくれるなよ。お陰で今夜は立って歩くのがやっとだ」
「え。じゃあお礼とお詫びも兼ねて、今夜はずっと、俺が呉羽を抱えててあげるよ」
「え? こ、断る」
「何で?」
「何でって……だってその……ち、近頃、少し、太っ……!」
不意に、足を滑らせた呉羽の身体が重力に引っ張られた。
「呉羽っ!」
俺は手を伸ばす。深紅も手を伸ばす。互いに左右から呉羽の腕を掴み、その甲斐あって、呉羽を土に倒れ込ませずに済んだ。
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