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「ありがとうございます、レティお姉さま。夕方までには屋敷に戻ります。どうしても、今日じゃないと見られないものがあったので良かったです!」
「見られないものとは何ですか……?」
首を傾げる。ユーウェイン様が出かける時は何か「目的」があることは知っている。だから、今日も何かの目的でフロウリース領へ足を運んでいるのもその理由だ。
ユーウェイン様は、私の手を離してそっと人差し指を立て自身の唇に添える。
「それは内緒です。行ってみてからのお楽しみっていうことで」
「えー教えていただいてもいいじゃないですか、ユーリ」
わざとらしく拗ねてみる。しかし、ユーウェイン様は私に教える気配もなく左右に首を振る。
「拗ねたレティお姉さまも好きですが、くっと我慢します。行くまでは教えられません。だけど、保証します……レティお姉さまもきっと喜ぶものです」
「私が喜ぶものですか?」
「ええ、そうです。では、早速向かいましょう、レティお姉さま!」
「あ、ちょっと待ってください、ユーリ」
はて私の喜ぶものとはいかに。今日ではないと見られないものとどう繋がりがあるのだろうか。そんなことを考えていると、ユーウェイン様は一歩踏み出し私は慌ててその後へ着いて行く。
慌てて後を追いかけると、向こう側から人が来ていることに気づかず通行人と肩をぶつかってしまう。
「あ、すみません」
「いえいえ」
通行人に一言謝る。ユーウェイン様が遠くでレティお姉さまと元気よく呼ぶ声がする。すぐ行きますと返事しながらも、私は再度通行人に会釈しようとして、通行人が笑った。
「十分、”前”には気を付けてくださいね」
「……ええ、気を付けます」
注意有難うございますと通行人に再度会釈してユーウェイン様の元へ向かうのであった。
通行人は私たちが去っていた後を見送りながらも、怪しくほくそ笑む。
「本当、”前”には気をつけないとね、レティシア」
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