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「この花畑……いいえ、このイサヘイムの森は父が決めた大きなリゾート地計画のために伐採工事が明日から行われる予定なんです」
「だから、今日どうしても見せたかったと?」
「ええ、そうです。イサヘイムの森は僕のお気に入りの場所だったんですけど、最後の最後まで父に抗ってみましたが、所詮子供だ。何も守ることは出来ませんでした」
「ユーリ……」
すっかりと忘れていた。明日から領主、ジェイコブ様の指示のもと、リゾート地計画のため、イサヘイムの森は伐採工事に入る予定であることを。
私に見せたかったのも明日ではこの森に入ることを許されないからである。だからこそ、ユーウェイン様は今日にこだわっていたのだ。
元々自然を愛するユーウェイン様にとってイサヘイムの森も大切な場所だったんだろう。しかしながらユーウェイン様が抗ったところで、所詮は子供だ。
領主の命は絶対に覆ることはない。絶対的な権限を領主が持っているからだ。ユーウェイン様は悔しそうに唇を噛みながら、私の方へと振り向く。
「さて、そろそろ帰りましょうか、レティお姉様。これ以上ここにいても時間は待ってくれませんからね」
いつも通りに優しく無垢な微笑みを浮かべるユーウェイン様。彼は、その場から一歩を踏み出す。私はそんな彼を見て反射的に彼の手を掴んでいた。
「ユーリ。ディフィレイクレアの花言葉ご存知ですか?」
「花言葉ですか?」
「はい、そうです。ディフィレイクレアは、朝、昼、夕方、夜によって花言葉は変わるのです。特に夕方は……"形変わらぬ思い"です」
「"形変わらぬ思い"ですか……初めて聞きました。ですが、その花言葉を何故、急に?」
首をかしげるユーウェイン様。私も何故、彼の手を掴んでしまいこのような行動をとったのかわからなかった。
ただ、私はユーウェイン様に自分の気持ちを知っておいて欲しかったのだと考える。
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